旭川のデザインに関する取り組みが、全国的なデザイン賞で評価されました。2026年10月16日、株式会社KESIKIは、旭川市とともに取り組んできた「旭川デザインシステム」が、2026年度グッドデザイン賞の「地域の取り組み・活動」カテゴリーで受賞したと発表しました。この取り組みは、単に旭川市のロゴや広報物を新しくするものではありません。市のブランドとしての一貫性を保ちながら、職員が日々の業務や情報発信の中でデザインを活用できる環境を整えることを目指しています。広報物のテンプレートやポスター生成ツールを整備し、職員向けの研修やワークショップも実施。発表によると、これまでに400人を超える職員が参加しています。このニュースを見て、私が注目したのは賞そのものよりも、その取り組みの考え方です。デザインを、一部の専門家がつくる成果物で終わらせず、日々の仕事の中で使える仕組みにする。これは、旭川・上川の小さなお店や個人事業の情報発信にも通じる話ではないでしょうか。
ロゴを変えても、ブランドが変わるとは限らない
企業や自治体のブランドというと、ロゴ、カラー、キャッチコピー、ポスターなどを思い浮かべる人が多いかもしれません。もちろん、それらは大切です。しかし、組織が日々発信する情報は、ロゴやポスターだけではありません。ホームページのお知らせ、市民向けの案内文、イベントの告知、制度やサービスの説明、各部署が作成する資料や広報物。それぞれが別々の考え方でつくられていると、内容が違うだけでなく、見せ方や伝わり方にもばらつきが生じます。
ロゴを新しくした、ホームページをリニューアルした、デザインを統一した。これらはブランドを整えるうえで有効な手段です。ただし、見た目が変わったことと、相手に伝わる価値が変わったことは同じではありません。ホームページは洗練されているのに、SNSでは別の雰囲気で発信している。理念は立派なのに、実際のサービス内容がわかりにくい。こうした状態では、受け手が感じるブランドの印象は一貫しにくくなります。ブランドは、ロゴだけでできているわけではありません。発信する言葉、商品やサービス、接客、対応、情報の見せ方。そのひとつひとつが、ブランドの印象をつくっていきます。旭川デザインシステムが、ブランドとしての統一感を持たせながら、現場の職員が実際に活用できるガイドラインやツールを整備している点に、今回の取り組みの特徴があります。
デザインを、専門家だけのものにしない
旭川デザインシステムの発表では、広報物のテンプレートやポスター生成ツールの整備に加え、職員向けのワークショップや研修も紹介されています。ここで注目したいのは、デザインを専門家に任せきりにせず、実際に情報を発信する人たちが使えるようにしている点です。小さな事業でも、似たような課題があります。お店のロゴやホームページはプロに依頼した。でも、日々のSNS投稿はどうすればいいかわからない。最初は統一感のあるデザインだったのに、担当者が変わったり忙しくなったりすると、少しずつ雰囲気が変わってしまう。告知画像をつくるたびに悩み、毎回ゼロから考えている。これは、担当者のセンスや能力だけの問題ではありません。判断の基準や使い回せる仕組みが、十分に整理されていない可能性があります。毎回、上手につくることだけを目指すのではなく、毎回、迷いにくくする仕組みをつくる。たとえば小さなお店なら、投稿画像で使う色を決める、見出しや本文の文字サイズをある程度そろえる、店舗情報や営業時間の書き方を統一する、イベント告知のテンプレートを用意する。大きなブランドシステムを導入しなくても、考え方は応用できます。
小さなお店に必要なのは、立派なブランドマニュアルなのか
ここまで読むと、「うちにも本格的なブランドマニュアルが必要なのだろうか」と思うかもしれません。必ずしも、そうではありません。事業の規模や状況によって、必要な仕組みは違います。大切なのは、規模の大きな組織の仕組みをそのまま真似することではありません。自分たちが何に困っていて、どこをそろえると仕事が楽になり、どこには個性を残したいのか。それを整理してから、必要なルールをつくることです。まずは、この5つを考えてみる。1.自分たちは、何を大切にしているのか。2.誰に、何を伝えたいのか。3.どの媒体で、何を伝えるのか。4.毎回そろえるものは何か。5.状況に応じて変えてよいものは何か。この整理ができると、デザインや情報発信について、毎回ゼロから悩む必要が少なくなります。
また、私が大切だと考えているのは、媒体を別々に考えすぎないことです。SNSは知ってもらう、関心を持ってもらう場所。ホームページは理解してもらう、信頼につなげる場所。そして日々の運用ルールで一貫性を保ち、続けやすくする。たとえば、SNSでイベントを知った人がホームページを開いたとき、開催日時や場所が見つからない。商品に興味を持った人がプロフィールを見ても、購入方法がわからない。こうした状態では、せっかく興味を持ってくれた人が、次に何をすればよいのかわからなくなってしまいます。媒体ごとの役割を整理しながら、全体としてつながるように設計する。ホームページをつくること自体が目的ではなく、事業の価値を伝え、必要な人が次の行動に進める状態をつくることが目的です。
良い仕組みは、つくっただけでは十分ではありません。現場で使われること。仕事の中で役立つこと。使いにくい部分があれば改善すること。そうした運用があって初めて、仕組みは意味を持ちます。デザインは、つくって終わるものではない。日々の仕事に使われ、情報を届ける人を支え、地域や事業の価値を伝え続ける仕組みになってこそ、その力を発揮するのだと思います。旭川で商売をしている方も、自分のお店や事業の情報発信を、少し違う角度から見直してみてはいかがでしょうか。
