自分が長く使っている道具があるとします。どこを押せばいいか、どう使うか、どこが便利か、もう全部分かっています。だから「ここを押せばいいですよ」くらいで十分だったりします。でも初めて触る人には、それだけでは分からない。「そもそも、これは何?」「どこを押すの?」「押したらどうなるの?」。そこから必要になります。同じものを見ていても、持っている前提知識が違う。だから、分かりやすさも変わります。考えてみると当たり前なんですけど、仕事でWebを作ったり誰かに情報を伝えたりしていると、つい忘れてしまいます。
専門家には普通でも、初めての人には難しい
Webの仕事でも、これはよくあります。「サーバー」「ドメイン」「SSL」「CMS」「SEO」。僕にとっては仕事をしていれば普通に出てくる言葉です。でもWebに詳しくない人からすると、何のことか分からないかもしれません。そこで「これは常識だから」と説明を省いてしまうと、相手は途中から置いていかれます。逆に全部を細かく説明しすぎても、今度は話が長くなってしまう。ここでも「何を知っている人に話すのか」が大事になります。「もっと簡単にしてください」と言われることもあります。これも難しい。簡単にする方法はいろいろあって、文章を短くする、言葉をやさしくする、情報を減らす、図にする、写真を使う、順番を変える。でもどれを使うかは相手によって変わります。文章を読むのが得意な人にはちゃんと説明したほうが分かりやすいかもしれないし、文章を読むのが苦手な人には写真や図のほうが入りやすいかもしれない。「簡単にする」ことと「分かりやすくする」ことは、同じではありません。
同じホームページでも、見ている場所が違う
ホームページでも面白いことがあります。お客さんは商品ページを見ている。店主はトップページを気にしている。求人を探している人は採用ページを見ている。取引先は会社概要を見ている。同じサイトなのに見ている場所が違います。だから「このホームページは分かりやすいですか?」という質問だけでは少し足りない。誰にとって?何を知りたいときに?どこを見て?そこまで考えて、ようやく「分かりやすい」が見えてきます。もう一つ、自分への注意として書いておきたいことがあります。自分で作った文章やホームページは、何度も見ているとだんだん分かりやすく感じてくる。自分の頭の中ではちゃんとつながっているからです。でも初めて見る人には、その「頭の中の地図」がありません。「ちゃんと説明したつもり」なのに相手には伝わっていない。しかも自分では気づきにくい。だから一度作ったものを時間を置いて見たり、初めて見る人の目線で見直したりします。誰かに見てもらって「ここ、どういう意味?」と言われることは、失敗というより貴重な情報です。分かりやすさは、作った人の中だけでは完成しません。
だから僕は「分かりやすいデザインの正解」を一つに決めるのは難しいと思っています。情報の順番、見出し、余白、言葉の選び方、視線の流れ。基本的な考え方はあります。でも、それらを使って作るものは相手によって変わる。子ども向けなら子どもにとって分かりやすい形があり、専門家向けなら専門家にとって必要な情報があり、初めての人には初めての人なりの入口が必要です。「分かりやすいか?」ではなく「誰にとって、何が分かりやすいのか?」と考える。これだけでも見方はかなり変わると思います。その人にとって、その仕事にとって、その場面にとって、何が分かりやすいのかを考える。それが、僕のやっている「整理」の一部なのかもしれません。
