「誰にでも伝えたい」が伝わらない理由|まず一人を想像する情報発信

SI — Structural Intelligence

お店なら、できるだけたくさんの人に来てほしい。商品なら、できるだけたくさんの人に知ってほしい。仕事なら、できるだけたくさんの人から相談してほしい。「でも、できれば誰にでも知ってほしいんです」。これはすごくよく分かりますし、普通の気持ちだと思います。ただ、伝える側として考えると「誰にでも」はけっこう難しい。「誰にでも伝えたい」と思うほど、何を伝えるかが難しくなります。

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みんなに話しかけると、誰にも届かないことがある

街で誰かに話しかける場面を想像してみてください。「みなさん、こんにちは。今日は、とてもいい商品があります」。もちろん、それでも伝わることはあります。でも「パンを買いたい人へ」と言われたほうが、パンを探している人には自分の話として入りやすい。さらに「朝、時間がなくて、さっと食べられるものを探している人へ」となれば、もっと具体的になります。これは他の人を追い出しているわけではありません。まず誰か一人が「あ、自分のことかも」と思えるようにする、その入口を作っているだけです。Webの仕事では「ターゲット」という言葉をよく使います。便利な言葉ですが、僕は少しだけ距離を置いて考えています。人を年齢や性別や職業だけで切り分けても、実際の人はそんなに単純じゃない。同じ40代でも、暮らしている場所も、仕事も、家族も、興味も違う。「40代男性向け」とだけ決めても、その人が何を考えているかまでは分かりません。僕が考えたいのは「今、何を探している人なのか」「何に困っている人なのか」「何を知ったら、興味を持つのか」という、もう少し具体的なところです。

誰かを決めると、文章が書きやすくなる

不思議なもので「みんなに向けて書こう」とすると、文章がぼんやりすることがあります。できるだけ嫌われないように、誰にでも当てはまるように、誤解されないように。そうやって言葉を丸くしていくと、結局何を言っているのか分からなくなる。逆に「こういうことで困っている人に話そう」と決めると、言葉が具体的になります。何を説明するか、何を省くか、どんな例を出すか、判断しやすくなる。誰か一人を想像すると、かえって多くの人に伝わることがあります。「狭くする」と「絞る」も少し違います。「旭川に住んでいる人」という入口の中にも本当にいろいろな人がいますし、「旭川で小さな店をやっている人」としても、パン屋さんもいれば、美容室もあれば、工房もある。それでも「小さな事業を、自分で動かしている」という共通点は見つかります。人を閉め出すために絞るのではなく、話しかける相手を想像する。そのくらいの感覚で考えています。また「全員に分かってもらおう」としすぎないことも大事だと思っています。「この考え方は、自分には合わない」と思う人がいてもいい。むしろ合う人にはちゃんと伝わることのほうが、その後の関係は自然になることがあります。

誰にでも「同じ言い方」をする必要はない

同じ仕事でも、相手によって説明の入口は変わります。初めて知った人には、まず「何をしているのか」。興味を持った人には「どんな特徴があるのか」。依頼を考えている人には「どうやって頼めるのか」。すでに知っている人には「最近こんなことをしています」。同じ人や同じ店でも、相手の状態によって必要な情報は変わります。だから「誰向け?」を考えることは、一回決めて終わるものではありません。「誰にでも伝えたい」と聞いたとき、僕は「じゃあターゲットを絞りましょう」とすぐには言わないと思います。その前に「どういう人に、一番喜んでもらいたいですか?」と考えます。すると、その人の顔が少し見えてくることがあります。その人が見えてくれば、言葉も写真も、見せる順番も変わってくる。それでも他の人が見てはいけないわけではありません。入口だけ少し具体的にする。その先には、いろいろな人が入ってきてもいい。「誰にでも伝えたい」は「誰にでも同じように話す」ことではない。僕はそんなふうに考えています。

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