「もっとわかりやすく書いたほうがいい」
WebサイトやSNSの文章を考えるとき、そんなアドバイスを受けることがあります。
たしかに、わかりやすいことは大切です。
でも、「わかりやすい文章」にすれば、それだけで伝わるのでしょうか。
私は、少し違うと思っています。
大切なのは、誰にでもわかる言葉をつくることではなく、
「その人にとって、自分に関係のある言葉になっているか」
を考えること。
情報があふれる2026年だからこそ、「何を書くか」だけではなく、「誰の目線で言葉をつくるか」を考えてみたいと思います。
「伝わる言葉」と「きれいな言葉」は違う
文章を整えていると、どうしてもきれいな言葉を使いたくなります。
「地域社会に貢献するサービスです」
「高品質な商品を提供しています」
「お客様一人ひとりに寄り添います」
「豊かな暮らしをサポートします」
どれも悪い言葉ではありません。
むしろ、企業やサービスとして間違ったことを言っているわけではない。
でも、こうした言葉だけを読んだとき、
「それって、自分のことだ」
と思える人は、どれくらいいるでしょうか。
言葉として正しくても、自分との関係が見えなければ、読み手の中を通り過ぎてしまいます。
だから、
「正しい言葉」
と
「届く言葉」
は、同じではありません。
人は「自分に関係がある情報」を探している
たとえば、
「Webサイト制作を承ります」
という文章。
サービスとしてはわかります。
でも、Webサイトを持っていない人が、
「自分のことだ」
と思うとは限りません。
一方、
「ホームページを作ったけれど、何を載せればいいかわからない」
という人に向けて、
「今ある情報を整理して、必要な人に伝わるWebサイトに整えます」
と書けば、少し関係性が生まれます。
サービスの内容そのものを変えたわけではありません。
言葉を、提供する側の視点から、受け取る側の視点に移しただけです。
この違いは、とても大きい。
「ターゲット」は年齢や性別だけではない
マーケティングでは、
「ターゲットを決める」
という言葉がよく使われます。
年齢。
性別。
地域。
職業。
家族構成。
所得。
もちろん、こうした情報も役に立ちます。
でも、それだけでは「どんな言葉が届くのか」までは見えてきません。
たとえば、
「旭川で小さな店を経営している40代」
という人がいたとしても、
「これからホームページを作りたい人」
なのか、
「ホームページはあるけれど更新できていない人」
なのか、
「SNSだけで十分だと思っている人」
なのか、
「Webのことを誰に相談したらいいかわからない人」
なのかで、必要な情報はまったく違います。
だから私は、
「誰に?」
だけではなく、
「その人はいま、どんな状態なのか?」
まで考えることが大切だと思っています。
「誰に」より、「どんな状態の人に」
これはWebサイトをつくるときにも、とても重要です。
たとえば、
「新規顧客を増やしたい事業者」
というターゲットがいたとします。
でも、その人が、
「そもそも何を発信すればいいかわからない」
のか、
「発信はしているけれど反応がない」
のか、
「ホームページとSNSの役割がわからない」
のか、
「問い合わせはあるけれど成約につながらない」
のか。
それぞれ悩みが違います。
だったら、同じサービスを紹介するとしても、入口の言葉は変わります。
「Webサイト制作」
ではなく、
「ホームページはある。でも、何を伝えればいいかわからない」
というところから始めることもできる。
言葉を考えるというのは、
単語を選ぶことだけではありません。
相手がどこにいるのかを考えることでもあります。
「自分たちの言葉」だけで書いていないか
仕事をしていると、専門用語が増えていきます。
それは悪いことではありません。
専門家同士なら、専門用語があったほうが正確に伝えられることもあります。
問題は、
「その言葉を、初めて見る人も理解できるだろうか」
ということです。
たとえば、
「ブランディング」
「コンバージョン」
「UX」
「導線設計」
「情報設計」
「CRM」
など。
言葉そのものを使ってはいけないわけではありません。
必要なら使えばいい。
ただ、その言葉を使った瞬間に、
「それって何?」
という人が置いていかれる可能性があります。
だから、
専門用語を使わない。
ではなく、
専門用語を使ったなら、必要に応じて意味を説明する。
という考え方が大切です。
「相手の言葉」を拾う
では、どうすれば相手の言葉がわかるのか。
実は、特別なコピーライティングの技術がなくても、材料は身近なところにあります。
お客様からよく聞かれる質問。
問い合わせメール。
電話での相談。
店頭での会話。
SNSのコメント。
レビュー。
クレーム。
「何を質問されるか」。
「どこで困っているか」。
「どういう言い方をしているか」。
そこには、その人が実際に使っている言葉があります。
たとえば、提供側は、
「Web導線の最適化」
と言っている。
でもお客様は、
「ホームページを見ても、どこを見ればいいかわからない」
と言っているかもしれません。
どちらも同じ問題を指している可能性があります。
でも、初めての人に届きやすいのは、後者かもしれない。
だから、文章をつくる前に、
「実際のお客様は何と言っているのか」
を見る。
これはかなり大切な作業です。
「お客様の言葉」は、マーケティングの材料になる
ここで大切なのは、
「お客様に合わせて、何でも言葉を変える」
ということではありません。
自分たちの価値を曲げる必要はありません。
むしろ、
自分たちは何を提供しているのか。
それをお客様はどう理解しているのか。
その間にどんなズレがあるのか。
そこを見る。
このズレを見つけると、
サービスそのものを改善できることもあります。
説明が足りない。
料金体系がわかりにくい。
専門用語が多い。
申し込み方法が複雑。
期待されることと、実際に提供できることが違う。
こうした問題は、文章を書き直すだけでは解決しない場合があります。
でも、言葉を見直すことで、問題そのものが見えてくることがあります。
Webサイトでは「検索される言葉」も考える
Webサイトの場合は、さらにもう一つ考えることがあります。
「実際に、その人は何と検索するのか」
です。
事業者側は、
「事業構造設計」
と言っていても、
検索する人は、
「旭川 ホームページ 相談」
かもしれない。
「情報設計」
ではなく、
「ホームページ 何を書けばいい」
かもしれない。
「マーケティング支援」
ではなく、
「SNS 集客 うまくいかない」
かもしれない。
この違いを無視して、
自分たちが使いたい言葉だけでWebサイトをつくると、
「専門的には正しいけれど、検索する人の言葉とは違う」
という状態になります。
SEOでも、AI検索でも、ここは重要です。
検索される言葉をただ詰め込むのではなく、
「その人は、何を知りたくて、その言葉を使っているのか」
まで考える。
それが情報設計につながります。
2026年は「検索キーワード」だけでは足りない
AIに質問する時代になると、情報の探し方はさらに変わります。
「旭川 Web制作」
のような短いキーワードだけではなく、
「旭川で小さな店をやっているんだけど、ホームページとSNSをどう使い分ければいい?」
のような質問になることもあります。
そうなると、
単語を入れておけばいい。
という発想だけでは足りません。
「何について書いているのか」
「誰に向けているのか」
「どんな問題を扱っているのか」
「どういう考え方をしているのか」
を、文章全体で明確にすることが重要になります。
つまり、
SEOのために文章を書く。
というより、
「人にも検索にもAIにも、意味が理解できる文章を書く」
という方向に近づいていく。
これは、松井構造室が大切にしている「情報を整理する」という考え方とも相性がいいと思っています。
「誰にでも伝わる」は、実は難しい
よく、
「誰にでもわかる文章にしましょう」
と言われます。
でも、誰にでも伝えようとすると、文章はどんどん抽象的になっていきます。
「すべての人の暮らしを豊かにする」
「地域に貢献する」
「未来をより良くする」
もちろん、そうした理念には意味があります。
でも、具体的な行動につながるところでは、
「誰の、どんな困りごとに対して、何をするのか」
まで下ろしたほうが伝わりやすい。
だから、
「誰にでも伝わる」
より、
「必要な人が、自分に必要な情報だと気づける」
ことを目指したほうがいい。
私はそう考えています。
伝える側が「わかりやすくしたつもり」にならない
文章を書く側は、何度も読み返します。
だから、どんどんわかった気になっていきます。
「これなら伝わるだろう」
と思う。
でも、その文章を初めて見る人は、
背景を知りません。
経緯も知りません。
専門用語も知らないかもしれません。
過去の投稿も読んでいない。
だから、一度、
「この文章を、何も知らない人が読んだらどう感じるだろう?」
と考えてみる。
できれば実際の人に読んでもらう。
「これ、何のことだと思う?」
と聞いてみる。
その答えが、自分の意図と違ったら、
「相手がわかっていない」
のではなく、
「自分の伝え方に改善する余地がある」
と考えてみる。
この姿勢は、Webだけではなく、仕事そのものを改善するきっかけにもなります。
旭川という「デザイン都市」で考える、伝えるということ
旭川は2019年10月、ユネスコ創造都市ネットワークにデザイン分野で加盟しました。
現在の旭川市は、デザイン思考やデータに基づくマーケティングを活用する「デザイン・マーケティング課」を設け、デザインシステムの活用も進めています。2026年1月からは市民もデザインシステムを利用できるようになっています。 旭川市公式サイト
こうした話をすると、
「デザイン=見た目」
と思われることがあります。
でも、デザインをもっと広く、
「相手との関係をどうつくるか」
「どうすれば理解しやすくなるか」
「どうすれば使いやすくなるか」
「どうすれば未来の状態を少し良くできるか」
と考えてみると、
文章も。
Webサイトも。
SNSも。
サービスも。
仕組みも。
全部、デザインの対象になり得ます。
だから私は、Webの仕事をするときにも、
「どんなデザインにしましょう?」
だけではなく、
「誰が、何のために、どう使うものなんだろう?」
から考えたいと思っています。
言葉は「飾るもの」ではなく、関係をつくるもの
コピーを書く。
文章を整える。
キャッチコピーを考える。
こうした作業は、一見すると「言葉をきれいにする仕事」に見えます。
でも、本当はもっと前にある。
誰に伝えるのか。
何を伝えるのか。
相手は何を知らないのか。
何を不安に思うのか。
どんな言葉なら、自分に関係があると感じるのか。
どこでその情報を見るのか。
そのあと、何を判断するのか。
そこまで考えて初めて、
「この言葉にしよう」
というところにたどり着く。
だから私は、
「文章を書くこと」
よりも、
「文章を書く前に整理すること」
を大切にしたいと思っています。
松井構造室では、言葉の前に「構造」を見る
松井構造室でWebや情報発信を考えるとき、
「もっといいキャッチコピーを考えましょう」
から始めるとは限りません。
むしろ、
「そもそも、誰に何を伝えたいんですか?」
から始めることがあります。
誰に。
何を。
なぜ。
どこで。
どの順番で。
その先に何をしてほしいのか。
そこが整理されると、
必要な言葉も変わってきます。
Webサイトも、
SNSも、
プロフィールも、
サービス紹介も、
全部が少しずつつながってきます。
言葉を変えるだけで解決することもあります。
でも、言葉を変えても解決しないこともある。
その違いを見つけることも、情報設計の仕事だと思っています。
「あなたに向けて書いています」が伝わる文章へ
情報があふれている時代だからこそ、
「誰にでも伝わる文章」
より、
「これは自分のための情報かもしれない」
と思ってもらえる文章が大切になっています。
そのために必要なのは、派手なコピーとは限りません。
相手の状態を想像すること。
実際に使われている言葉を拾うこと。
専門用語を必要に応じて翻訳すること。
情報の順番を整理すること。
検索される言葉と、提供側の言葉の違いを見ること。
そして、
「伝わらなかったとき、相手のせいにしない」
こと。
伝えることは、
自分の言いたいことを大きな声で言うことではありません。
相手が受け取れる形にして、必要な場所に置くこと。
それもまた、情報を設計することだと思います。
「もっと発信しなきゃ」
と思ったとき。
「もっといい文章を書かなきゃ」
と思ったとき。
その前に一度、
「誰に向けて話しているんだろう?」
と考えてみる。
すると、書くべきことが少し変わるかもしれません。
情報を増やす前に、整理する。
言葉を飾る前に、相手を見る。
松井構造室では、そんなところからWebや情報発信を考えています。