「ブランディング」という言葉を聞くと、少し大げさに感じる人もいるかもしれません。大きな会社が、広告を出して、ロゴをつくって、ブランドカラーを決めて、イメージを統一する。そんなものを想像する人も多いと思います。では、個人事業主はどうでしょう。スタッフは自分ひとり。広告に大きなお金をかける余裕もない。そもそも「ブランドをつくる」ほど、自分の事業は大きくない。そう考えるのも自然です。でも、むしろ逆だと思います。個人事業主だからこそ、ブランディングについて考える意味があります。なぜなら、個人事業では「誰がやっているのか」そのものが、仕事を選ぶ理由になることがあるからです。
個人事業主は、最初から「人」が見えている
大きな会社の場合、顧客は必ずしも担当者本人を知っているわけではありません。会社名や商品名、店舗名などを通して、そのサービスを認識します。一方で、個人事業主の場合は少し違います。「○○さんにお願いする」という形になりやすい。美容師、カメラマン、デザイナー、士業、講師、セラピスト、職人、飲食店の店主など。仕事の内容だけではなく、「この人なら話しやすそう」「この人の考え方が好き」「この人なら任せられそう」という感覚が、選択に影響することがあります。つまり、個人事業主は「人」を隠してブランドをつくるというより、すでに見えている「人」と仕事との関係を整理する必要があるのです。
でも、「自分を売り込むこと」とは違う
ここは結構大事です。個人事業主のブランディングというと、「自分をもっと発信しよう」「毎日SNSに顔を出そう」という話になりがちです。もちろん、それが必要な仕事もあります。でも、ブランディングと自己アピールは同じではありません。たくさん自分の写真を投稿したからといって、ブランドができるわけではありません。毎日「頑張っています」と発信したからといって、選ばれる理由が明確になるわけでもありません。むしろ大切なのは、「この人は、何を大切にして仕事をしている人なのか」が、少しずつ伝わっていくことです。そのためには、プロフィールだけではなく、商品、サービス、文章、写真、接客、Webサイト、SNS、問い合わせへの対応など、いろいろな接点が関係してきます。
ブランドは「自分の設定」でもありません。「私はこういう人です」と決めれば、それがブランドになる。そんなに簡単ではありません。ブランドは、自分が決めたものだけではなく、相手の中に積み重なっていくものだからです。たとえば自分では「丁寧な仕事をしています」と思っていても、問い合わせへの返信がいつも遅ければ、相手には別の印象が残るかもしれません。「地域に根ざした仕事」と言いながら、実際の活動が地域の人からほとんど見えなければ、その言葉はなかなか積み上がりません。だから、個人事業主のブランディングでは、「何を名乗るか」より「実際に何をしているか」のほうが重要になります。
「らしさ」は、つくるものというより見つけるもの
個人事業主の場合、ゼロからキャラクターをつくろうとすると、少し無理が出ることがあります。「こういう人に見られたい」と考えすぎると、発信そのものが苦しくなってしまう。だから、まず自分の仕事を振り返ってみるほうがいいと思います。どんな相談を受けることが多いのか。何を頼まれると嬉しいのか。どんな仕事なら時間を忘れて考えられるのか。逆に、どういう仕事はやりたくないのか。お客さんから、どんな言葉をかけられることが多いのか。仕事をするとき、何だけは妥協したくないのか。こういうところを掘っていくと、本人が意識していなかった「らしさ」が見えてくることがあります。それを整理して、商品やサービス、発信に反映していく。そのほうが、無理に「ブランドっぽい自分」を演じるよりも長続きします。
もう一つ大切なのは、個人事業主のブランドを「本人だけのもの」にしないことです。たしかに人柄は重要ですが、最終的にお客さんが買うのは、その人の人生そのものではありません。商品だったり、サービスだったり、技術だったり、体験だったりします。だから、「私はこんな人です」だけではなく、「だから、この仕事をこういう形で提供しています」までつながっている必要があります。人柄とサービスがバラバラでは、ブランドもバラバラになります。
「有名になること」が目的でもありません。旭川で仕事をしている人なら、旭川で必要としている人に知られることのほうが大切な場合もあります。大切なのは、「何人に知られているか」だけではなく、「誰に、何者として知られているか」を考えることです。
個人事業主のブランディングで考えたい5つのこと
難しいブランド戦略を最初からつくる必要はありません。まず、次の5つを考えるだけでもかなり整理できます。
1. 何をしている人なのか。一言で説明できるか。
2. 誰の役に立てるのか。できるだけ具体的に考えてみる。
3. 何を大切にしているのか。仕事をするときの判断基準を言葉にする。
4. どんな仕事をしたくないのか。「やらないこと」も、実はブランドをつくる。
5. 実際の仕事と発信が一致しているか。プロフィール、Webサイト、SNS、サービス内容にズレがないか確認する。
特に4番目は意外と重要です。「何でもできます」は、一見すると強そうに見えます。でも、何でもできる人は、何を頼めばいいのかわからなくなることがあります。「これはやらない」という線引きがあることで、逆に「これは任せられそう」が見えてくることもあります。
「自分自身がブランドになる」というのは、芸能人のように有名になることではありません。名前を見たときに仕事が思い浮かぶ。文章を読んだときに考え方が思い浮かぶ。実際に仕事を頼んだときに、「やっぱり思っていた通りだった」と感じてもらえる。そういう小さな一致が積み重なっていく。それが、個人事業主にとってのブランドなのだと思います。
避けたいのは、実際以上に大きく見せることです。実績を盛る、肩書きを増やす、難しい言葉を並べる。短期的には、それで興味を持ってもらえることもあるでしょう。でも、仕事を頼まれた後に実態とのズレが出れば、かえって信頼を失います。つくるべきなのは実態より大きな期待ではなく、実際の仕事と一致した期待です。
自分の考え、実際の仕事、相手から見える印象。この3つの間に、大きなズレがない状態をつくっていく。それが、個人事業主にとってのブランディングなのかもしれません。どこから手をつければいいか分からないときは、一人で抱えず、相談しながら整理していく方法もあります。無理に自分を大きく見せなくてもいい。無理にキャラクターをつくらなくてもいい。ただ、自分が何をしていて、誰に何を届けていて、何を大切にしているのか。それが少しずつ伝わっていけばいい。そのくらいのブランディングのほうが、長く続くと思います。
