「ポジショニング」という言葉は、マーケティングを勉強していると、かなり頻繁に出てきます。簡単に言えば、「自分たちのブランドを、顧客の頭の中でどこに位置づけてもらうか」という考え方です。ただ、「どこに位置づけてもらうか」という説明だけだと、少し難しく感じます。小さな事業の場合なら、もっと身近に、「似たものがたくさんある中で、自分たちはどんな場所に立つのか?」と考えると分かりやすいと思います。今回は、ブランド・ポジショニングについて考えてみます。
ポジショニングは「自分の好きな場所」ではない
たとえば、街にパン屋さんが10軒あるとします。どのお店もパンを売っています。でも、お客さんから見ると、それぞれに違いがあります。「朝早くから買える店」「素材にこだわっている店」「子どもと行きやすい店」「特別な日に買いたい店」「普段使いしやすい店」。これらは、単純に商品の違いだけではありません。「その店をどういう存在として捉えるか」という違いです。この「頭の中での立ち位置」を考えるのが、ブランド・ポジショニングです。
ここは少し注意したいところです。ポジショニングというと、「自分たちはこうなりたい」と考えて終わってしまうことがあります。でも、ポジショニングは、自分だけで決められるものではありません。市場があり、競合がいて、顧客がいます。その中で、「顧客から見たときに、自分たちはどこにいるのか」を考える必要があります。「高級なブランドにしたい」と思っているだけでは、高級ブランドとして認識されるわけではありません。商品、価格、デザイン、接客、場所、情報発信など、さまざまな要素が組み合わさって、実際のポジションがつくられます。
「何でもできます」は、ポジションが見えにくい
小さな事業でよくあるのが、「いろいろできます」という状態です。実際には、できることが多いのは悪いことではありません。問題は、それを見た人が「結局、この人は何が得意なの?」と思ってしまうことです。Web制作もできます。SNS運用もできます。デザインもできます。動画もできます。これだけ並んでいると、情報量は多いのですが、ブランドとしての立ち位置が見えにくくなることがあります。そこで必要になるのが、「結局、自分たちは何者として覚えてもらいたいのか?」という問いです。
ポジショニングは「できることを減らす」ことではありません。たくさんのサービスを提供していても、そこに共通する考え方や役割があれば、ブランドとしてまとまります。たとえば、「Webをつくる会社」ではなく、「情報を整理して、伝わる状態をつくる会社」と考える。そうすると、Web制作も、文章整理も、SNS設計も、情報設計も、ひとつの考え方の中に置けます。サービスを絞るのではなく、「意味」を整理するという考え方もできるのです。
もう一つ大切なのが、顧客の視点です。同じブランドでも、誰から見るかによって位置づけは変わります。ある商品を「高品質な商品」と見る人もいれば、「価格が高い商品」と見る人もいます。だからポジショニングは、「誰にとって、どんな存在として認識されるのか」まで考える必要があります。
競合と比べるから「場所」が見えてきます。ここでいう競合は、同じ商品を売っている会社だけではありません。お客さんが「自分の代わりに選ぶ可能性があるもの」も競合になります。地域の飲食店なら、別の飲食店だけではなく、コンビニで済ませる、家で食べる、そもそも外食しない、という選択肢もあります。競合を考えるときは、「同じものを売っている相手」ではなく、「顧客の選択肢」を見ることが重要です。
マーケティングでは「ポジショニングマップ」という方法が使われることもあります。2つの軸を設定して、競合や自分たちの位置を置いてみる方法です。ただし、重要なのは「空いている場所を見つければ勝てる」という単純な話ではないことです。誰もいない場所には、需要がない、コストが高すぎる、価値が伝わりにくいといった理由があるかもしれません。ポジショニングマップは「空いている場所探し」ではなく、市場を整理して考えるための道具として使うほうがいいと思います。
「違う」だけではポジショニングにもなりません。大切なのは、「その違いによって、顧客にとって何が変わるのか?」です。珍しい、面白い、新しい。これらは特徴です。でも、その特徴が顧客にとって価値につながって初めて、選ばれる理由になります。
ポジショニングは「一番になること」ではない
ポジショニングという言葉から、「市場で一番になる」というイメージを持つ人もいるかもしれません。でも、必ずしも一番である必要はありません。小さな事業であれば、「このことなら、この人」「この用途なら、この店」「この地域で、この相談ならここ」と思ってもらえることにも意味があります。必要としている人の中で、分かりやすい場所を持つ。それもポジショニングです。
地域で活動する小さな事業の場合、場所そのものもポジショニングの一部になります。「旭川の○○」「北海道の○○」「この地域で○○をする人」という認識です。これは単なる住所情報ではありません。地域のイベントに参加する、地域のお店と仕事をする、地域の情報を発信する、地域の人に利用してもらう。こうした活動も、ブランドのポジションを形成していきます。全国で知られることよりも、まず自分たちが必要とされる範囲で、明確な場所を持つことが重要になる場合があります。自社の立ち位置が見えにくいと感じたら、一度立ち止まって整理してみることから始めてみてください。
ポジショニングを考えるなら、次の5つの質問が使えます。お客さんは、自分たちを何のために選んでいるか。似た選択肢と比べて、どんな違いがあるか。その違いは、お客さんにとって意味があるか。「○○ならここ」と言われるとしたら、○○には何が入るか。今の発信やサービスは、その立ち位置と一致しているか。特に4番は使いやすいと思います。「旭川で○○なら?」「○○について相談するなら?」。そんなふうに、自分たちの名前が入る場面を考えてみる。そこからポジションが見えてくることがあります。
ポジショニングは、単純に「市場のどこにいるか」という地図上の場所ではありません。本当に大切なのは、「その場所にいることに、どんな意味があるのか」です。旭川にある、Webサービスを提供している、パンを売っている。それだけでは、まだポジションとは言いにくい。そこに、「なぜ、この人なのか」「なぜ、この店なのか」という意味が加わる。その意味が顧客に理解されることで、ブランドの立ち位置が少しずつ明確になっていきます。
