AIが賢くなるほど、人間の仕事は何になるのか。ChatGPTを開発するOpenAI。そのCEOであるサム・アルトマンは、AIの進化が社会や仕事のあり方を変えていく時代の中心人物の一人です。私が気になるのは、彼がどれだけすごい人物なのかという話だけではありません。AIが進化したとき、私たちの仕事はどう変わるのか。そして、資金も人手も限られた小さな事業者は、何を強みにすればいいのか。サム・アルトマンとOpenAIの動きから考えます。
AIを作る会社が、中小企業の支援にも動いている
サム・アルトマンは、生成AIサービス「ChatGPT」を提供するOpenAIのCEOです。AIをめぐる競争は、文章を上手に書いたり画像を作ったりする段階にとどまらず、情報を調べる、複数の資料を比較する、仕事の手順を整理する、業務の一部を実行するなど、知識を提供する道具から仕事そのものを支援する仕組みへと用途を広げています。
2026年9月30日、OpenAIは米国の中小企業支援機関America's SBDCとの連携を発表しました。発表によると、AIの活用方法を学ぶための支援者向け研修や、実際の仕事を題材にしたワークショップなどを通じて、中小企業がAIを業務に取り入れることを支援する計画です。また、OpenAIが公表した利用状況のレポートでは、2026年9月9日から15日の1週間に、従業員500人未満の企業で働く約400万人がOpenAIの製品を利用したとしています。これはOpenAIが公表した同社製品の利用データであり、すべての企業におけるAI普及率を示す数字ではありません。それでも、AIが一部の技術者だけの道具ではなく、日々の仕事に使われ始めていることを考える材料になります。
注目したいのは、AIの機能を紹介するだけではなく、事業者が実際の業務で使えるようにする取り組みが進んでいることです。パン屋さんが新商品の紹介文を作りたいと思っても、日々の仕込みや接客で手いっぱいかもしれない。ハンドメイド作家なら、作品を作る時間はあっても、商品説明やSNS投稿、オンライン販売の準備まで手が回らないことがあります。こうした仕事にAIを使うことはできます。ただし、AIを導入することが目的ではありません。AIを使うことで何の仕事が進むのか、誰の負担が減るのか、お客さんにどんな価値を届けられるのか。そこまで考えて、初めて道具が事業の力になります。
文章を書く仕事の価値は、置き場所が変わる
AIを使えば、ブログ記事の下書きも、SNS投稿も、商品説明も作れます。以前なら文章を書くこと自体が一つの技術でした。今は、文章の形を整える作業だけなら以前より簡単にできるようになっています。では、文章を書く仕事の価値はなくなるのでしょうか。私は、価値がすべてなくなるというより、価値の置き場所が変わっていくのだと考えています。
「新商品の紹介文を300文字で書いてください」とAIに依頼して文章を作る仕事と、誰に買ってほしいのか、どんな悩みや希望があるのか、商品のどこに価値があるのか、競合商品と何が違うのか、どんな行動につなげたいのかを整理する仕事は違います。後者が整理されていなければ、AIが文章を作れても、伝えたい相手に届くとは限りません。情報が足りなければ、AIは一般的な表現に頼りがちです。つまり、AIが文章を作れるようになったからこそ、何を伝えるべきかを決める仕事が重要になります。これは文章だけの話ではなく、ホームページ、SNS、広告、商品企画、接客、サービス設計にも共通しています。
また、AIは「考えるための道具」として使うものです。もっともらしい答えが返ってきても、読みやすいことと正しいことは別です。AIは事実と異なる情報を出すことがあり、法律、税金、医療、契約、資金計画など間違いが大きな影響を及ぼす分野では情報の確認が欠かせません。自分では思いつかなかった選択肢を出してもらう、考えていることを文章に整理してもらう、複数の案のメリットとデメリットを比較する。答えをそのまま採用するのではなく考える材料として使い、現実の状況や自分の経験に照らして判断する。AIに任せることと、責任まで手放すことは違います。
小さな事業者に必要なのは、AIの知識だけではない
AIの話題になると、最新のツールや新機能に注目が集まります。でも、小さな事業者が最初に考えたいのは、どのAIを使うかよりも、今の仕事のどこに困っているかです。SNSを更新しているのに問い合わせにつながらない、ホームページはあるけれど何を直せばいいのかわからない、商品の魅力を説明しようとすると、いつも同じ文章になる。こうした悩みは、AIを使えばすべて解決するわけではありません。発信する内容が整理されていなければ、投稿を量産しても伝わりにくいままです。
AIを使う前に整理したいのは、①誰に届けたいのか、②相手は何に困っているのか、③自分の商品やサービスで何を解決できるのか、④どの情報を、どこで伝えるのか、⑤伝えたあと、相手にどんな行動をしてほしいのか、の5つです。これらが整理されていれば、AIに依頼する内容も具体的になります。
2026年6月、サム・アルトマンとOpenAIの共同執筆者ヤクブ・パチョッキは、AIを社会に広く役立てるための考え方を公式記事で発表しています。その記事では、技術そのものだけでなく、人々が実際に何をできるようになるか、幅広い人や組織が恩恵を受けられるかという視点が示されています。ホームページを作ること自体が目的になっていないか。SNSに投稿すること自体が目的になっていないか。AIを使うこと自体が目的になっていないか。それぞれの作業の先に、お客さんに知ってほしいことや、解決したい問題があるはずです。
旭川や上川地域の小さなお店にも、小さな事業者だからこそ持てるものがあります。店主の人柄、商品が生まれた背景、お客さんとのやりとり、地域とのつながり、長年積み重ねてきた経験。それらは、お客さんにとって意味のある形で伝わり、実際の体験と一致して、初めて選ばれる理由になっていきます。まずは毎日の仕事の中から一つだけ、AIに仕事を手伝ってもらいましょう。商品説明の下書き、SNS投稿の候補、よくある質問への回答のたたき台、ホームページの見直し、仕事の整理。AIが作ったものをそのまま使うのではなく、内容が事実と合っているか、自分の事業に合っているかを最後に自分の目で確かめる。そして、顧客の個人情報や非公開の経営情報などを入力する場合は、利用するサービスのデータ取り扱いを確認し、必要以上の情報を入力しないことも忘れないようにしましょう。AI時代に必要なのは、道具を使う力と、方向を決める力です。
