「ブランド」という言葉を聞くと、どうしても有名企業や高級ブランドを思い浮かべます。ロゴがあって、統一されたデザインがあって、大きな広告があって、全国的に知られていて、たくさんの人がファンになっている。そんなイメージです。もちろん、それもブランドの一つです。でも、ブランドという言葉の本質を考えると、必ずしも「有名であること」は必要ではありません。たとえば、旭川のある地域で長く続いている小さなお店について、「あのお店なら安心」「あそこに行けば間違いない」「あの人に頼めばちゃんとしてくれる」という認識があったとします。全国の人は知らない。SNSのフォロワーも多くない。広告もほとんど出していない。それでも、その地域の人にとっては、はっきりとした存在です。これも立派なブランドです。
ブランドは「規模」ではなく「認識」の問題
ここで大事なのは、ブランドを規模で考えないことです。大企業だからブランドがある。小さな店だからブランドがない。そんな単純な話ではありません。ブランドは、「その名前や存在を知ったとき、人の中に何らかの認識や印象が生まれているか」というところから考えられます。たとえば、旭川のある店について、「パンがおいしい店」「子どもと行きやすい店」「店主さんが面白い店」「ちょっと特別な日に行きたい店」というイメージが地域の人の中にあれば、それはすでにブランドとして機能しています。有名かどうかとは別の話です。
小さな事業の面白いところは、企業よりも「人」が見えやすいことです。大企業の商品を買うときは、その会社の社長と直接話すことはほとんどありません。でも、小さなお店では、店主と話すことがあります。SNSで本人が投稿していることもあります。そのため、「何を売っているか」だけではなく、「誰がやっているか」もブランドになりやすい。逆に言えば、本人の態度や言葉、仕事への向き合い方まで、ブランドの一部として受け取られることがあります。
「店の雰囲気」もブランドになります。店に入った瞬間の雰囲気、商品の並び方、店員さんの話し方、包装、Webサイト、SNS、写真、口コミ。こうしたもの全部が、その店についての印象をつくります。だから、「丁寧なお店」を目指しているなら、商品だけ丁寧に作ればいいわけではありません。問い合わせへの返信、説明の仕方、梱包、店内、Webサイトの情報。そうしたところにも「丁寧さ」が現れます。
小さなお店に必要なのは「有名になること」なのか
「ブランドを強くする」というと、フォロワーを増やしたり、知名度を上げたりすることを考えがちです。もちろん、認知は大切です。知られていなければ、選択肢にも入りにくいからです。でも、小さなお店にとって、必ずしも全国的な知名度が必要とは限りません。商圏が旭川市内なら、まず旭川で知られることが重要かもしれない。全国通販なら、地域ではなく検索やSNSを通じて必要な人に知られることが重要かもしれません。つまり、「どこまで知られたいのか」もブランド戦略の一部です。
小さな事業を考えるとき、面白いのが「この店といえば○○」という状態です。「あそこは季節の商品が面白い」「あの店は説明が分かりやすい」「あそこは贈り物を選ぶならいい」というように、何か一つの記憶と結びついている。これは「ブランド連想」ともつながります。何でもできる店より、必ずしも専門店のほうが優れている、という話ではありません。でも、「何を思い出してもらうか」を考えると、発信もサービスも整理しやすくなります。
逆に「何でもあります」は、覚えにくいことがあります。Webサイトに「商品販売」「コンサルティング」「イベント」「制作」「講座」「その他いろいろ」と並んでいると、初めて見た人は「結局、この人は何の人なんだろう?」となることがあります。これは「サービスを減らせ」という話ではありません。複数の活動を一つの意味でつなぐ方法があります。たとえば、「人や情報を整理して、動きやすくする」という考え方があれば、複数のサービスをその軸で説明できます。サービスを一つにするのではなく、意味を一つにつなぐ。小さな事業のブランドを考えるとき、これはかなり使える考え方です。
ブランドは「足す」だけではない
ブランディングというと、何かを追加するイメージがあります。ロゴを作る。写真を撮る。キャッチコピーを作る。SNSを始める。Webサイトをリニューアルする。もちろん、必要な場合はそれも大切です。でも、その前に一度、「今すでに何がブランドになっているのか?」を見たほうがいいと思います。お客さんがよく褒めてくれるところ、リピートする理由、紹介されるときの言葉、SNSで反応される投稿、問い合わせでよく聞かれること。こうしたところに、すでにブランドの種があるかもしれません。
ここで、「強み」と「ブランド」は少し違うことも押さえておきます。「作業が速い」「価格が安い」「技術が高い」というのは、強みになるかもしれません。でも、それだけでブランドになるとは限りません。強みは「自分たちが持っている特徴」です。一方、ブランドは、その特徴を含めたさまざまな経験が、人の中で意味として残っていくものです。たとえば、「あの人は仕事が速い」という強みが、何度も体験されることで、「あの人に頼めば安心」というブランドイメージにつながることがあります。強みそのものより、強みがどんな記憶に変わっていくかを見ると分かりやすいと思います。
口コミも、小さな事業のブランドをつくります。広告を見た人より、知り合いから「あそこ、よかったよ」と言われたほうが安心して行けることがあります。口コミをする人は、必ずしもブランド戦略を理解しているわけではありません。それでも、「あそこは○○だから」という一言で紹介します。つまり、ブランドが人の中で分かりやすい意味になっていると、紹介もしやすくなります。
小さなお店のブランドを考える5つの質問
もし、自分のお店や事業について考えるなら、まずは次の質問から始めてみてもいいと思います。
1. 初めて知った人に、何をしている人・店だと思ってもらいたいか?
2. 実際のお客さんは、自分たちを何と言って紹介しているか?
3. 「ここを選んだ理由」を聞いたら、何が出てきそうか?
4. 自分では当たり前だと思っているけれど、他人から評価されていることは何か?
5. 半年後、一年後に「この店といえば○○」と言われるなら、何と言われたいか?
特に面白いのは、2番目です。自分が書く紹介文ではなく、他人が自分をどう説明しているかを見る。そこには、自分では気づいていないブランドが見つかることがあります。
小さな事業の場合、ゼロからブランドをつくるというより、すでにあるものを整理するところから始めるほうが自然なこともあります。これまでの仕事、お客さんとの関係、商品の特徴、店の雰囲気、地域との関わり、発信してきた内容、人から言われてきたこと。そうしたものを一度並べてみる。すると、「自分では普通だと思っていたけれど、これが特徴だったのか」というものが見つかることがあります。この作業が、小さな事業のブランディングではかなり大切だと思っています。ブランディングの目的を「有名になること」だけにしないこと。地域で必要な人に思い出してもらう。自分の得意な分野で相談先として思い出してもらう。一度利用した人に、もう一度選んでもらう。誰かに紹介してもらう。こうしたことも、ブランドが機能している状態です。「どれだけ有名になるか」ではなく、「誰の中に、どんな意味で残るか」を考えてみると、かなり現実的になります。
