仕事をしていると、たまにこんなことがあります。「うまく説明できないんだけど……」「なんとなく、こういう感じで……」「自分では分かってるんだけど、言葉にすると難しくて」。僕は、こういう話を聞くのがけっこう好きです。言葉になっていないだけで、その人の中にはすでに何かがあることが多いからです。何もないところから作るのではなく、すでにあるものを見つけて、言葉や形にしていく。それがこの仕事です。
自分のことは、近すぎて見えにくい
小さな店をやっている人でも、長く仕事をしている人でも、これから何かを始めようとしている人でも、頭の中にはたくさんのものがあります。なぜこの仕事を始めたのか、何を大切にしているのか、どんな人に来てほしいのか、どんな商品を作っているのか、どんな経験をしてきたのか、これから何をしたいのか。でも、それを全部きれいに整理して文章にできる人ばかりではありません。むしろ、できないほうが普通です。「あなたの強みは何ですか?」と突然聞かれても答えにくいし、「うちは普通ですよ」と言う人もいます。でも、その「普通」を少し聞いてみると「それ、他ではあまりやっていないですよ」ということがあったりする。本人にとっては普通でも、外から見ると特徴だったりするのです。だから僕は、最初から「強みはこれです」と決めるより、「なんで始めたんですか?」「お客さんから何て言われます?」「そこは、なぜそうしているんですか?」と話を聞いていきたいと思っています。
言語化は、うまい文章を書くことではない
僕は、言語化を「かっこいい文章を書くこと」だとは思っていません。難しい言葉を使うことでもない。本人が言いたかったことを、本人にも分かる形にする。まずはそれでいい。例えば「お客さんに喜んでもらえる仕事がしたい」という言葉があったとして、「どんなお客さんに?」「どんなときに?」「何をして喜んでもらいたい?」「なぜ、それを大切にしている?」と聞いていくと、もっとその人らしい言葉が出てくるかもしれません。僕がやりたいのは、その言葉を無理に作ることではなく、すでにある考えを見つけることです。
言葉だけでは足りないものは、形にする
頭の中にあるものは、文章だけで伝わるとは限りません。写真にする、図にする、ページにする、商品にする、SNSにする、メニューにする、Webサイトにする。形にする方法はいろいろあります。頭の中だけで考えていると、やりたいこと、やらなければいけないこと、今できること、いつかやりたいこと、過去の経験、今の悩み、未来のアイデアが全部混ざります。だから、いったん外に出してみる。紙に書く、メモする、箇条書きにする、図にする、ページに並べる。そうすると「あ、これは同じ話だったんだ」「これは別の話だった」と気づくことがあります。Webサイトは、情報を載せる場所であると同時に、その人の頭の中を整理して見せる場所にもなる。だから作るときにいきなりデザインから始めるのではなく、まず話を聞くのです。
可視化すると、本人も判断しやすくなる
言語化や可視化は、見る人のためだけではありません。頭の中にあると「なんとなくやりたい」だったものが、「これは今やる」「これは後でいい」「これはやらなくていい」と分けられることがあります。つまり、伝えるためだけではなく、決めるためにも使えるのです。僕がその人の代わりに「あなたはこういう人です」と決めたいわけではありません。話を聞く、質問する、情報を並べる、共通点を見つける、違いを分ける、言葉にしてみる、形にしてみる、そして「これで合ってますか?」と確認する。違えば直す。その繰り返しで、一緒に見えるところまで持っていくのが僕の役割です。
まとめ
今はAIを使えば、文章も画像も企画案もある程度の形にできます。でもAIに「そもそも自分は何をしたいんだろう?」と聞いても、本人の経験や考えを知らなければ、本当にその人らしい答えになるとは限りません。これからは、何を作るかより何を材料にするか、そして何を残して、何を捨てて、どう使うかがますます大事になると思います。AIに形を作ってもらうことはできる。でもその前に、形にするものを見つけなければならない。最初からきれいに説明できなくても大丈夫。きれいにまとめるのは、そのあとでいいのです。
