ブランドを知って、良いイメージを持ったら、必ず選び続けてもらえるのでしょうか。もちろん、そうとは限りません。一度買ってくれた人が、次も同じブランドを選ぶ。他の選択肢があっても、またそのブランドを選ぶ。人にすすめる。そんな状態があります。今回は、「ブランドロイヤルティ」について考えてみます。ブランドロイヤルティは、簡単に言えば、顧客が特定のブランドを継続的に選び、好意や信頼などを持って関係を続ける状態を指す言葉です。「ロイヤルティ」という言葉には、忠誠心や愛着といった意味があります。ただ、ここで少し注意したいことがあります。「何度も買っている=必ずブランドロイヤルティが高い」とは限らない、ということです。
「また買う」と「このブランドだから買う」は違う
近所にその店しかないから。他に選択肢がないから。たまたま便利だから。価格が安いから。こうした理由でも、繰り返し購入は起こります。たとえば、いつも同じコンビニを利用している人がいたとします。その理由が「家から一番近いから」だったとしたら、これは便利さによる継続かもしれません。一方で、少し遠くても、「この店の商品が好きだから」「この店に来ると気分がいいから」という理由で選んでいるなら、そこにはブランドとの心理的な結びつきがある可能性があります。だからブランドロイヤルティを考えるときは、「何回買ったか」だけではなく、「なぜ選ばれたのか」を見ることが重要になります。
人とブランドの関係は、いきなり強い愛着になるわけではありません。最初は、たまたま知る。次に、試してみる。そこで悪くなかった。もう一度利用する。何度か利用するうちに安心感が生まれる。「ここなら大丈夫」と思う。さらに、他の人にもすすめるようになる。こうした積み重ねがあります。だから、いきなり「ファンをつくろう」とするより、最初の接点から、次の接点までをどう設計するかを考えたほうが現実的です。
ロイヤルティは「好き」だけではありません。「ここなら安心」「いつも通りでいい」「考えなくても選べる」「前に良かったから、今回もここにしよう」。こうした感覚も重要です。むしろ日常の商品やサービスでは、強烈なファン心理よりも、安心して選べることのほうが大きな意味を持つ場合もあります。
今は、選択肢がとても多い時代です。商品を買うにしても、インターネットで全国から探すことができます。そんな中で、一度利用した人が、もう一度戻ってきてくれる。これは小さな事業にとって、とても大きな意味を持ちます。最初に知ってもらうためには、認知をつくり、比較してもらい、選んでもらい、実際に利用してもらう必要があります。そこまで進んだ人が、次の機会にも思い出してくれる。これは、最初から新しい人を探し続けることとは違います。
「安いから」はロイヤルティなのか
ここは、価格について考えると分かりやすいです。「いつも安いから、この店を使う」という人がいたとします。その店より安い店が出てきたら、乗り換える可能性があります。一方で、「この店の商品が好き」「ここで買うと安心」「この店員さんから買いたい」という理由があれば、価格だけでは簡単に動かない関係になる場合があります。もちろん、価格もブランドを選ぶ重要な理由です。ただ、価格だけに依存した関係と、価格以外にも意味がある関係では、ブランドとしての強さのつくり方が変わってきます。
ブランディングの話では、「ファンをつくる」「ファン化する」という言葉がよく使われます。でも、この言葉は少し慎重に使ったほうがいいと思っています。事業者側が「ファンになってください」と思っても、顧客側には顧客側の事情があります。まず必要なのは、「また選んでもらう理由があるか」ではないでしょうか。商品が良かった、対応が良かった、分かりやすかった、安心できた、自分に合っていた、考え方に共感した。こうした具体的な理由が積み重なった結果として、「好き」が生まれることがあります。
ロイヤルティは、体験の積み重ねから生まれます。顧客がブランドを知る。興味を持つ。選ぶ。体験する。その体験から何かを感じる。その記憶が残る。次の機会に思い出す。そして、また選ぶ。そうした時間の積み重ねの中で、ブランドとの関係が育っていきます。だからブランドロイヤルティを考えるなら、SNSの「ファン数」だけを見るのではなく、顧客がブランドと接する一連の体験を見る必要があります。
自分の事業について考えるなら、次の質問が使えます。初めて利用した人が、もう一度利用する理由は何か。他の選択肢ではなく、自分たちを選ぶ理由は何か。利用後に、どんな記憶を残したいか。「またここにしよう」と思ってもらえるポイントは何か。人にすすめるとしたら、どんな言葉で紹介されるだろうか。特に最後の質問は面白いと思います。「あそこ、いいよ」だけではなく、「○○なら、あそこがいいよ」という言葉が出てくるなら、そこにはブランドとの強い結びつきがあるのかもしれません。
ブランドロイヤルティは、顧客を「囲い込むこと」でもありません。顧客を離れにくくするのではなく、「次に必要になったとき、自然と思い出してもらえる」状態をつくる。そのためには、無理に接触回数を増やすより、利用したときの経験を良くすることのほうが重要な場合があります。メールを何通も送ることより、商品そのものが良い。SNSで何度も売り込むことより、前回の対応が良かった。そんな関係です。ブランドロイヤルティとは、顧客が特定のブランドを継続して選び、そこに好意や信頼などの結びつきを持つ状態です。大切なのは、顧客に「好きになってもらう」ことだけではありません。「次に必要になったとき、もう一度選ぶ理由があるか」を考えること。それは、商品やサービスそのものだけでなく、Web、SNS、接客、購入後の体験、ブランドの考え方など、いろいろなものの積み重ねによってつくられていきます。
