「それ、知っていると思っていました」
仕事をしていると、ときどきこんな言葉を聞きます。
「それ、ホームページに書いてありますよ」
「SNSでも告知したんですけどね」
「前にも説明したんです」
「たぶん、みんな知っていると思っていました」
僕自身も、これまで何度も見たり、聞いたりしてきました。
そして、正直に言えば、自分自身もやってきたことがあります。
伝えた。
書いた。
投稿した。
説明した。
だから、
「知っているはず」
と思ってしまう。
でも、
「伝えたこと」と「伝わっていること」は、同じではありません。
ここは、WebやSNS、マーケティングを考えるときに、とても大切なところだと思っています。
「書いてある」と「伝わっている」は違う
例えば、ホームページに営業時間が書いてあるとします。
でも、スマートフォンで見たときに見つけにくい。
あるいは、トップページにはなく、何ページも移動しないと分からない。
これでは、
「ちゃんと書いてあります」
とは言えても、
「ちゃんと伝わっています」
とは言いにくい。
SNSでも同じです。
投稿した。
でも、その投稿を見た人が、
「何の話なのか」
「自分に関係があるのか」
「どうすればいいのか」
を理解できなければ、情報は届いたとしても、意味までは届いていません。
情報発信では、この違いが意外と大きい。
情報は「置く」だけでは届かない
Webサイトを作っていると、
「情報を載せる」
という表現をよく使います。
会社概要を載せる。
サービス内容を載せる。
料金を載せる。
アクセスを載せる。
プロフィールを載せる。
もちろん必要な情報です。
でも、情報を載せることと、情報を整理することは違います。
例えば、
「初めて来る人が知りたいこと」
と
「自分たちが伝えたいこと」
は、必ずしも同じではありません。
自分たちは、
「創業から30年です」
と伝えたい。
でも、お客様が最初に知りたいのは、
「結局、何をしてくれる会社なの?」
かもしれない。
自分たちは、
「こだわりの製法」
を伝えたい。
でも、お客様が知りたいのは、
「自分にとって何がいいの?」
かもしれない。
自分たちは、
「いろいろなサービスがあります」
と伝えたい。
でも、お客様は、
「結局、私の場合はどれを選べばいいの?」
と思っているかもしれない。
ここに、
「伝える側」と「受け取る側」のズレがあります。
伝わらない原因は「文章が下手」だけではない
「伝わらない」と聞くと、
「もっと上手な文章を書かなければ」
と思う人もいるかもしれません。
もちろん文章は大切です。
でも、原因が文章だけとは限りません。
情報の順番かもしれない。
写真かもしれない。
ページ構成かもしれない。
タイトルかもしれない。
専門用語かもしれない。
そもそも伝える相手が決まっていないのかもしれない。
あるいは、
「何を伝えるべきなのか」
自体が整理されていないのかもしれません。
だから僕は、文章を書く前に、
「この人は、ここで何を知りたいんだろう?」
と考えるようにしています。
「誰に伝えるか」は、想像以上に重要
例えば、
「新しいサービスを始めました」
という情報があるとします。
これだけでは、まだ少し足りません。
誰に向けたサービスなのか。
初めての人なのか。
既存のお客様なのか。
法人なのか。
個人なのか。
専門知識がある人なのか。
まったく知らない人なのか。
同じサービスでも、相手によって必要な情報は変わります。
初めての人なら、
「これは何?」
から説明したほうがいい。
すでに知っている人なら、
「今回何が変わったの?」
のほうが重要かもしれない。
つまり、
「何を伝えるか」
だけではなく、
「誰に伝えるか」
を考える必要があります。
2026年は、さらに「AIに伝わる」ことも考える
ここは、以前とは少し違うところです。
2026年の今は、人間だけが情報を読むわけではありません。
検索エンジンだけでなく、AI検索や生成AIがWeb上の情報を読み取り、質問に対する回答を作る場面も増えています。
だから、これからの情報発信では、
「人間に分かりやすい」
ことに加えて、
「情報の意味や関係が整理されている」
ことも重要になっていくと思っています。
例えば、
「松井構造室とは何をするところなのか」
という情報が、
トップページには「Web制作」と書いてあり、
別ページには「事業構造設計」と書いてあり、
プロフィールには「Webディレクター」と書いてあり、
SNSでは「情報整理」と言っている。
これでは、人間が読んでも少し分かりにくい。
AIにとっても、何をしている事業なのかを一貫して理解するのは難しくなります。
だから、
「何をしているのか」
「誰のためなのか」
「どんな課題を扱うのか」
「どんな方法で支援するのか」
を、Webサイト全体でつなげておく。
これはSEOだけの話ではありません。
「意味を整理する」という情報設計の話です。
SEOも、結局は「伝えること」の一部
SEOというと、
キーワードをたくさん入れる。
検索される言葉を繰り返す。
タイトルを工夫する。
というイメージもあります。
もちろん、それらも一部です。
でも、検索する人が、
「自分が探していた情報だ」
と思えなければ意味がありません。
例えば、
「旭川 Webディレクター」
と検索した人が、
「この人は何をしてくれるのか?」
をサイトで理解できる。
「旭川 マーケティング」
と検索した人が、
「マーケティングだけでなく、Webや情報整理まで相談できるのか」
と理解できる。
「旭川 ホームページ」
と検索した人が、
「ホームページを作るだけではなく、何のために作るかから相談できるのか」
と分かる。
検索に引っかかることは入口です。
その先で、
「なるほど」
と思ってもらえることが大切です。
旭川で仕事をするなら、「地域の言葉」も大切にしたい
僕は北海道旭川市を拠点に仕事をしています。
だから、全国向けのWebサービスだけを考えるのではなく、
「旭川で仕事をする人が、どう情報を伝えるか」
ということも考えます。
旭川市は2019年にユネスコ創造都市ネットワークのデザイン分野に加盟し、「デザインの力で、持続可能で誇りある地域社会を実現する」というビジョンを掲げています。
また、2026年には旭川市デザインシステムの市民利用も始まり、デザイン都市としての発信や活用が進められています。
旭川市には現在、デザイン・マーケティング課も設置されています。
こうした環境の中で「デザイン」や「マーケティング」を考えるとき、僕は単に広告や見た目の話だけではなく、
「どうすれば情報が伝わり、人や活動が動きやすくなるか」
というところまで考えたいと思っています。
「知っているはず」を一度疑ってみる
もし、
「ちゃんと告知したのに来てもらえなかった」
「ホームページに書いてあるのに問い合わせが多い」
「SNSで紹介しているのに知られていない」
ということがあったら、
「もっと宣伝しなければ」
と考える前に、一度こう問い直してみてもいいと思います。
本当に、その情報は見つけやすかっただろうか。
本当に、相手が知りたい順番になっていただろうか。
本当に、自分に関係する情報だと分かっただろうか。
本当に、言葉の意味を理解できただろうか。
本当に、次に何をすればいいか分かっただろうか。
そして、
「そもそも、こちらが伝えたいことと、相手が知りたいことは同じだろうか」
と。
伝えることは、「相手の立場に立つ」だけでもない
ここも少し違うと思っています。
「お客様の立場になって考えましょう」
という言葉はよくあります。
でも、実際には相手の頭の中を完全に理解することはできません。
だからこそ、
「分かったつもりにならない」
ことが大切なのだと思います。
仮説を立てる。
実際に聞いてみる。
反応を見る。
問い合わせ内容を見る。
アクセスを見る。
お客様の言葉を聞く。
そして、また整理する。
伝えることは、一度文章を書いて終わる仕事ではありません。
相手との間にあるズレを、少しずつ小さくしていく仕事でもあります。
小さな事業ほど「伝えること」を整理したほうがいい
大きな会社なら、
広報担当。
営業担当。
マーケティング担当。
Web担当。
SNS担当。
デザイナー。
ライター。
それぞれの専門家がいるかもしれません。
でも、小さな事業では、一人で全部やっていることも珍しくありません。
商品を作る。
お客様に対応する。
経理をする。
SNSを書く。
ホームページを更新する。
写真を撮る。
問い合わせに返信する。
その上で、
「もっと発信しないと」
となる。
これは、かなり大変です。
だからこそ、
「何を伝えるか」
「どこで伝えるか」
「誰に伝えるか」
「何を伝えなくていいか」
を整理することに意味があります。
発信量を増やす前に、
「そもそも何を伝えるべきなのか」
を決める。
それだけで、仕事が少し軽くなることがあります。
「伝わる」は、相手の中で完成する
僕は最近、
「伝える」という言葉より、
「伝わる状態をつくる」
という言い方のほうが、自分の仕事に近いと思っています。
こちらが言葉を発する。
情報を載せる。
投稿する。
ページを作る。
そこまでが「伝える」。
でも、
相手が意味を理解する。
自分に関係があると分かる。
必要な情報を見つける。
安心する。
次の行動を選べる。
そこまでいって、初めて「伝わった」と言える。
つまり、
「伝わる」という現象は、発信する側だけでは完成しません。
受け取る側との間で完成します。
だから、情報を作る側は、
「自分が何を書いたか」
だけではなく、
「相手からどう見えるか」
まで考える必要があります。
2026年版、「お客様は知っているはず」をやめる
「ホームページに書いてあります」
「SNSで告知しました」
「前に説明しました」
それ自体は間違いではありません。
でも、
「だから相手も知っているはず」
とは限らない。
人は、こちらが思っているほど情報を見ていません。
そして、見たとしても、こちらが思った通りに理解するとは限りません。
だから、
伝えたかどうか。
ではなく、
伝わる状態になっているか。
を考える。
そのために、
誰に。
何を。
なぜ。
どの順番で。
どこで。
どんな言葉で。
そして、次に何をしてほしいのか。
を整理する。
これが、2026年の今、僕が「伝える」という仕事について考えていることです。
作る前に、整理する。
ホームページを作る。
SNSを始める。
広告を出す。
文章を書く。
AIでコンテンツを作る。
どれも便利な手段です。
でも、その前に、
「誰に伝えたいのか」
「何を知ってほしいのか」
「何を理解してほしいのか」
「そのあと、どうなってほしいのか」
を考えてみる。
そして、
「今の情報は、本当に相手に届く状態になっているだろうか」
と、一度立ち止まってみる。
松井構造室では、WebサイトやSNSを作ることだけを目的にはしません。
今ある情報、人、サービス、活動のつながりを整理して、
「伝わり、動ける状態」
をつくることを考えています。
伝えることに迷ったら、
まず、増やす前に並べてみる。
そこから始めてもいいのだと思います。